
魔女になる方法と、SNS世代の魔女「ミレニアルウィッチ」
前回の記事「全米に100万人以上もいる『現代魔女』とその歴史」で、魔女の歴史やタイプについて触れた。“魔女”が、カルチャーや思想として大きなムーブメントになるほど、はっきりと存在することは理解いただけただろう。
今回は、アニメーション作家&魔女である円香さんへの取材を元に、今を生きる “魔女の世界”が実際どのようなものかを探っていく。さらに後半では、魔女になる方法とミレニアル世代のニュータイプ魔女を紹介。もちろん全て、今の世界で起きている現実の話。魔女が存在するという事実だけで驚いているみなさん、大丈夫?頑張ってついてきて!
日常のすぐ隣に“魔女”はいる
現代魔女の世界は、箒で空を飛べるようなフィクションの世界ではなく、れっきとした新宗教だ。実際は箒で空を飛ぶのでは無く、飛行軟膏で空を飛ぶのだがその話は今日はしない。無宗教国家の日本では宗教や信仰自体にアレルギーのある人も多いので、一体どのようなものなのかイメージが湧かないのも無理はない。しかし現代魔女宗は、私たちが想像する新興宗教のようなゾッとするものよりも、もっとずっと私たちの近くにあり、生活に根ざしている。
“おまじない”と聞けば、親近感が湧く人も多いかもしれない。消しゴムに好きな人の名前を書いて使い切ったら両想いになれるとか、ミサンガが切れたら願いごとが叶うとか、幼心に試した人もきっといるだろう。
1980年代から90年代にかけて『My Birthday』(説話社)という10代女子向けの雑誌があった。タロットカードや占い、おまじないが特集された月刊誌で、多いときには月に40万部も売れていた。当時の少女たちは、好きな人と両想いになるために必死になって願いごとを念じていたに違いない。
実はこのような「おまじない」は、実際の魔女カヴンで行われるような実践とそこまでかけ離れているわけではない。誰の中にでも“魔女性”があるということ。日本でも沖縄には「をなり神信仰」という姉妹が男兄弟を生涯霊的な力で守るという信仰がある。柳田國男の調査した「妹の力」は全ての女性に霊的な力があることを表す興味深い国内の例だ。
前回、全米に約100〜150万人の魔女がいるかもしれないというお話をしたが、実際に町を見渡せば海辺には多くの魔女やニューエイジショップがあり、キャンドルやハーブ、魔女の本が並んでいる。ある魔女ショップでは満月の夜だというだけで40人以上の男女が儀式の会場に集まることからも、西海岸の魔女文化は日本に比べても大きなシーンなのだと推測できる。
例えば、ロサンゼルスでは町にある普通の本屋や雑貨屋の1コーナーに魔術の道具や本が売られている。特にロサンゼルスのダウンタウンやサンタモニカの雑貨店などには、魔女が使う小道具のパロサントやセージや蝋燭など“魔術めいたもの”が生活を彩るモノとして当然のように売っている。
魔女の世界への入り口は、想像していた以上に身近にあるのだ。
魔女性は常に何気ない日常に潜んでいる。例えば、キッチンで料理することを“魔術の実践である”と多くの魔女は考えている。それだけではない。呼吸をすること、植物を育てること、地に足をつけて歩くこと、満月のかたちを観察すること、これらは全て普段から魔女が実践していることだ。
魔女にとっては、「こうしたら魔女になれる」とか「こうしないといけない」みたいな決まり事よりも、日常の何でもないことを丁寧に生きる感覚が求められるのかもしれない。
だから、魔女になりたければ「私は今日から魔女だ!」と腹を括って自己参入儀式をすれば、魔女になれる。ちなみに魔女は男性でもなれるし、ゲイやトランスジェンダーの魔女も少なくない。自己参入の儀式の方法は現代魔女宗の本を買えば書いてあるのでチェックしてみてほしい。ドリーン・ヴァリアンテの本でも、レイモンド・バックランドの本でもシルバーレイヴンウルフでもなんでも大丈夫なので、とにかく一冊買ってみて読んでみよう。
米国で若い魔女が増えているのは、こうした信仰のカスタマイズが可能で、それぞれが自分に合ったものを選べる自由な信仰のかたちや、魔女そのものを自由な女性の象徴としてポジティブに受け取られ始めたことが関係していると言える。“#metoo運動”などとも連動して、今の女性たちの求める力強いムードとマッチしているからかもしれない。
魔女は忙しい
次に浮かび上がる疑問は「魔女が普段、何をしているのか?」ということだ。実は魔女はとっても忙しい。魔女としての儀式をするために、色々な勉強が欠かせないのだ。魔女が普段実践していることは次の通り。
・占い
魔女を始めるのなら、何かしら1つは占いができると良いだろう。タロットカード、西洋占星術、ルーン、ペンギュラム、易、水晶、サイキックなど占いにも種類があり、複数できる魔女も多い。まずは、向いてると思うものから自由に始めてみると良い。
・料理
料理は毎日できる魔法。料理で魔術を実践する魔女のことを「キッチンウィッチ」などと呼ぶ。ハーブや占星術などを組み合わせて探求するのが面白い。
・お香/石/ハーブ
魔女はお香、石、木、ハーブを使いこなす。特にハーブに詳しい魔女を「グリーンウィッチ」と呼んだりする。ハーブは料理だけでなくハーブバック(御守り)制作、儀式の浄化などにも使われる。
・瞑想/ヨガ/呼吸法
瞑想、呼吸法、ヨガは魔女の基本だ。儀式では、集団での誘導瞑想やヴィジョンクエストと呼ばれる明晰夢を見る訓練をする。瞑想には様々な方法があるので一概にはいえないが、リラックスしているのに集中力が研ぎ澄まされたゾーンの状態などは、様々な局面で役に立つだろう。自分で色々な方法を勉強して自分に合った方法をやってみるのが良い。
魔女の儀式や活動方法
魔女は、“カヴン”と呼ばれるグループでワークをしていく。カヴンによってルールや文化が異なり、儀式の内容が完全に非公開のところもあればオープンな集団もある。ただ、必ずしもカヴンに属さなければいけないというわけでもなく、「ソロ魔女」として単独で魔術やまじないに励む魔女もいる。儀式のデザインは、カブンや魔女によって違うようだが、今回は想像しやすいようにメジャーな儀式の方法を紹介しよう。
まず、儀式の目的を決める。次に魔法円を作る。魔法円の作り方はカヴンによって違うが、歌ったり踊ったりしながら魔法円の設置を行うカヴンも存在する。
魔法円の中は神聖なスペースで、外部とは切り離されているので、要注意。間違ってもいきなり感極まって、走って外に出たりしないように。一時退出するときは魔法円を開くための作法を守ろう。魔法円の中で占いを行うこともあったり、鏡を作ったり、ハチミツのスペルを作ったりと、DIYの時間もある。DIYは魔女にとってとても大切な行為である。終わったら召喚した神様にお礼を言って返し、魔法円を閉じるべし。
魔女が行う祝祭について
魔女にとって特に重要な儀式は祝祭だ。 1年の中で重要な「儀式/お祭り」をする時期が決まっている。ちなみに作物の収穫のサイクルで行う祭りを「サバト」、満月の夜の集会を「エスバト」と呼ぶ。
・イモルグ 2/2
春の訪れを祝うお祭り。新しいメンバーを迎え入れるのに最適。
・オスタラ 3/22
春分の日。イースターと同様。
・ベルテイン 4/30
夏の初めを祝うお祭り。ワルプルギスの夜と同様。
・リーザ 6/21
夏至の日。豊作を祈るダンスも行われた。
・ルーナサー 7/31
一足早めの収穫祭。
・メイボン 9/21
秋分の日。
・ソーウィン 10/31
ハロウィンと同様。
・ユール 12/21
冬至の日。
日本だとソロ魔女が多いが、アメリカではカブンやコミュニティーが多く存在する。カヴンの様子が見たいときや他の魔女に会ってみたいとき、ペイガンの人々が集まる会が1年に1度催されているのでこれは見逃せない。「ペイガンプライド」だ。これに参加すると、様々な魔女たちが物販をしていて、タイムテーブルで儀式やワークショップ、講演が同時に開催されている。来た人はオープンリチュアルに自由に参加できる。
(※ペイガン…自然崇拝/異教主義者のこと)
実際、西海岸の魔女術の熱狂はすごい。カリフォルニアで行われるあるカヴンの魔女たちの集会「ウィッチキャンプ」には、毎年100人以上の魔女が訪れる。1週間、電波の届かない深い森の中で朝から晩まで大きな火を囲み儀式を行う。いかなるドラッグも当然禁止だが、トランス状態になる人は大勢いて、泣いて叫んでなんと20人くらいは全裸らしい。「人生を変える経験をした」と多くの人が口を揃える。
ヒッピーカルチャーと魔女
アメリカの魔女文化を語る上で、ヒッピーやカウンターカルチャーとの関連性は無視できない。アメリカは、キリスト教が圧倒的なマジョリティだ。そこに疑問を感じて「自分の信仰を見つけたい」という人がカウンターカルチャーとして、魔女になるケースが大多数なのだ。魔女になった理由を聞くと、敬虔なクリスチャンの家庭育ちで信仰に疑問を持ったという人は意外に多い。
タトゥーの入った魔女が多いのは、魔女が転生の文化だからだろうか。生まれたときに与えられた自分の名前とは違う、魔女としての名前を持ち、意志を持って魔女の人生を選び生まれ変わる経験が、魔女のイニシエーションだ。それは身体に痛みの伴う儀式を通して精神に大きな変化を引き起こす「身体改造文化」と、無関係ではなさそうだ。
日本ではキリスト教がマジョリティーではないため、魔女はカウンターカルチャーではない。それどころか、八百万の神々を信仰する自然崇拝の思考が根付いており、かつ仏教も身近であるから、魔女になる理由が欧米に比べると見つけづらい。
ミレニアルウィッチの生態
近年、ミレニアルウィッチという言葉がインターネット記事で見られるようになったが、その正体は謎に包まれている。わかっているのは、ミレニアルウィッチは高い美意識をもち、SNS上での情報発信力が強いということ。
ミレニアルウィッチの前に話題になった魔女・ティーンウィッチたちは、後ろ暗くオタクっぽい、「スクールカースト底辺から運命を切り開いていこう」とするじめっとした雰囲気のある人が多かった。放課後になると、ウィッカに興味のある友達と恐る恐るおまじないをするアレだ。1996年の映画『THE CRAFT』や日系三世のジュリアン&マリコ・タマキの『THE GIRL』には、ティーンウィッチの様子が象徴的に描かれている。
それに比べてミレニアルウィッチは後ろ暗くなく、ファッショナブルだ。アクセサリーや小道具もセンスがあり、Instagramでも人気が高い。ロサンゼルス周辺には「HOUSE OF INTUITION」という非常にモダンなデザインの魔術雑貨ショップが6店舗ある。この店はいわゆるケルトっぽい土臭さがなく、白と黒で統一され、陰気なゴスにそこまで強くは引っ張られないミニマルな店構えだ。
ファッション雑誌『VOGUE』とコラボレーションしたりカンナビスブランドとのタイアップなど、他業界への影響も強くファッションアイコン的なポジションを確立しはじめている。ミレニアルウィッチの正体は現在も調査中。





イベント告知
「未来魔女会議」
2019年10月26日@ネイキッドロフト
人々は「魔女」というイメージに惹かれ続けてきました。映画やアニメーションだけでなく、2018年にはDiorががマザーピースタロットのアイテムシリーズをリリース、2019年にはGucci Cruise Fashion Showで「魔女」がキーイメージになったりとアート、ファッションの世界からも魔女の周辺文化は大きな注目を集めています。
なぜ、今人々は魔女に魅了されるのか?
長年インドネシアでの魔女文化の調査をされ、ご自身が「魔女になった文化人類学者」である鍵谷明子さんや、その他ディープな論客が登壇予定。会場では魔女、魔術を実践するアーティストたちの展示、パフォーマンス、物販も予定。
interview to
円香
千葉県出身。アニメーション作家、魔女、魔術占術研究家。
ロサンゼルス、南カリフォルニア大学 Jaunt VR LabにてInteractive Animation、VR/ARを滞在研究。西海岸の魔女カヴンにて現代魔女宗をフィールドワーク、Witchcraftの実践研究を行う。
Karin
Writer / Editer
普段は某メディアでジャーナリスト&編集者として活動する傍ら、自身の表現追求のため、trenchantに所属。
人の内面へ深く入り込んだインタビューを、事実と空想を織り交ぜながら文章に編み込んでいく作業が好き。たまにイラストも描く。
Oct 16th 2019
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