“WATANABE YOUFUKU ZAKKATEN” ファンション業界のコアで活躍してきたあの人物による、「粋」が止まらないお店に迫る part2

“WATANABE YOUFUKU ZAKKATEN”
福岡の天神に存在するヴィンテージセレクトファッションストア。お店のオーナー/ディレクターは小城大輔さん。

東京のヴィンテージショップで経験を積みデザイナーも経験した後、「好きなことを好きなだけ」をコンセプトにこのお店を福岡につくった。

WATANABE YOFUKU ZAKKATENがオープンしたのは2016年2月29日のこと。今年(2020年)の2月29日、お店は”1周年”を迎えた。

店内には、ファッションフリークであれば反応しないわけのない、洗練された、そしてヴィンテージならではの「体温」を感じるアイテムが、一枚一枚貫禄のあるアーティストのように並んでいる。

東京のファッション業界のコアで活躍していた彼が、なぜ福岡という地を選んで独立したのか。どのような思いでファッションに、そしてカルチャーに携わっているのか。店を訪れ、アイテムを手に取りながら行ったインタビューを通して紐解いていく。

〜 part1からの続き 〜

飢餓感というトリガー

ファッション・カルチャーの醸成に関して、小城さんは「飢餓感」をキーワードに語った。

彼がこのお店をオープンしたばかりの頃、心底こだわった服を提示しても、全くお客さんから反応が得られなかったという。一方、東京の知人からの紹介や評価により、当初はむしろ東京など福岡の外から来てくれるお客さんの方が多かったそうだ。

当時、東京で服屋をやっている友人とそんな話をした時、「福岡はストレスがないから」という言葉が返ってきた。

東京で服が売れたり、様々なカルチャーが育つのは、ストレスが多いから。逆に、福岡がそうでないのは、ストレスがないから。この「ストレス」を小城さんは「飢餓感」という言葉に置き換える。

「古い時代を遡って見てみれば、ヴィヴィアンウエストウッドが入り口を作ってるんですけど、Sex Pistolsやパンク、あれってイギリスから生まれてるじゃないですか。

イギリスってめちゃめちゃ伝統的で、『男性とは』とか『紳士とは』みたいな縛りが強い国じゃないですか。だからこそ、反動があそこまでいっちゃった。日本を思い起こすと、前衛的なカルチャーって意外と京都から生まれてたりするんですよね。

昔、京都にすごい店があって。デイトって店だったかな。yaponskiiとかマルジェラとかの古着とか、服屋としては、ここまで混ぜるかってくらいぶっ飛んだ店があったんです。今は名前を聞かなくなっちゃったので無いのかもしれませんが。京都ってやっぱり伝統的な町だし。寒いし、暑いし、ストレスも多いから、ファッションのカルチャーに対する反動もすごかったんです。」

―京都、たしかに。東京のストレスの話も、本当そうだと思います、動機がたくさんあるというか。

「そうですね、動機がたくさんある、いい表現ですね。」

日常の中で疑問に思うこと、こう在りたいと思う渇望。そういったものを形にしたい、どうにか残したい、行動したい、それによって変化をもたらしたい。そんな思いが主張を生み、ファッションや音楽といったカルチャー、アートを育てる。

そんな現象の発露としてイギリスや東京、京都の「飢餓感」を知りつつ、ある種対照的な福岡でカルチャーを発信する。そこに、小城さんの試みのおもしろさがある。

「(福岡の生活は何にもストレスがないから)まぁそうなるわな、っていうのと同時に、

ストレスのない福岡の環境だからこそ、『もっと色々あるぜ』っていうことは伝えたい。こういう尖ったものがあるというか、こんなおもしろいことが実はあるんだよっていうのとか」

ヴィンテージのアイテムと対峙する上での心の動きを「飢餓感」として投影するとすれば、例えばそれは、“この服はこの1着しか世の中になくて、本当に欲しいものはその時に手に入れなければ、もう出会えない” という時間感覚。

小城さんは、お客さんに買うように促すことは絶対にない。それが故、一回考えます、と買わずに帰り、翌週にはもう誰かの手に渡っていたという経験をする人が、とりわけ通い始めのお客さんには多くいるとのこと。

そんな中、いつも買うかどうか決めることができなかったお客さん(そして必ず数日後に来ては、すでに売れてしまい買うことができず、ことを繰り返していたお客さん)が、自分が欲しいものを見極められるように最近なって…という話をしてくれた。

ほしいのにすぐ売れてしまって手に入れることができない、今決めないと自分のモノにならない、というストレス=飢餓感を経験して、手に入れたいものがいつも待ってくれているわけではない、という時間感覚をお客さんが味わっているのではないか、と話してくれた。

同時に、ファッションというのは本来的にはそういうものだったが、ファッション業界全体がその飢餓感を喪失してしまっている、ということも話している。

業界では長年に渡り、お店側のリスクヘッジの為に、セールや受注会など、プライスを下げる形でユーザーに歩み寄り、アイテムの価値が落ちる瞬間を見せ続けてしまった、と。

「僕はその真逆やってやろうって。なんで、SALEやらないのもそうですね。どちらかというと、時間がたつ方が値段上げたいんですよ。より古くなっていく、ヴィンテージだから。百貨店とかセレクトショップとかの、シーズンが変わるから値段が下がるっていう、その概念がわかんなくて。なんで3ヶ月後に40% OFFになる商品を売ってるんだ、と僕は常々思っちゃうタイプなんで。」

ただ、これだけを聞くと、かなり高額でヴィンテージのアイテムを売っているのでは?と想像されると思う。私が強く感銘を受けたのは、はじめて小城さんとお話させていただいた際に伺った、WATANABE YOUFUKU ZAKKATENのポリシー。

小城さんは、ヴィンテージのアイテムを、プロパーで売られていた時より高いプライスは付けないようにしているという。

その話をうかがったときに私が想い起こしたのは、「尊敬できるDJのスタンス」であった。

素敵なPlayをするDJに限って、「最高のPlayです。この曲、すごく素敵ですね!」などと声をかけると、「この曲いいよねー!」といった具合に、同じリスナー観点のコメントが返ってくる。いい曲を相応しい場で紹介し、共有したい、という思い、そしてひとつひとつの音楽への敬意がそこにはあると思う。故に、至極のキュレーションとストーリーが生まれるのだろう。

小城さんのファッションへの営みは、デザイナー、そしてファッションを愛する人への敬意を感じさせる、知れば知るほど虜にさせられる世界である。

服の価値とは

価値のある服とは一体何だろうか。服を選ぶときに自分が考えることや、店員から掛けられる言葉を、なんとなくご想像してみて欲しい。

「うちのお客さんとかでも、多分それまで、『来年も再来年も、長く着れますよ』っていう接客をされてきた人たちが、僕に『長く着れますか?』って聞いてくるんですよ(笑)」

―(笑)

「そんな時僕は、これ40年前の服だから、今かっこいいってことは、多分永遠にかっこいいから大丈夫だよ、と伝えると同時に、でも、ちゃんと飽きた方がいいよ、って言うんです。

僕37ですけど、まぁ40の僕であれば、ずっと着れるかもしれないけど、25、6の子が、ずっと着れるってことは、その感覚を超えてないってことだから、ちゃんと飽きたら飽きたでいいし、飽きたとしても2年後3年後残しておいてくれたら、また着れるから、着たくなる服だから、とはいいますね。消化しないと。飽きるのはすごく大事ですから。」

―もう、本当そうですよね。飽きるのは新しいものを求めているってことですからね。

「そうです、そうです。これで一生いこうとしてんの?っていう(笑)」

私自身強く思うのは、長く「着れるかどうか」という考え方についてである。

まるで、長く着るかどうかを他人の判断基準で決めているようなニュアンス。長く「着る」のか、新しいものを求めるのか、それは自分次第で自分にしか判らないはずである。

「ずっと直しながら、10年くらいかけて育てながら着るような服もありますけど、じゃあシャツとか、これずっと長く着れますか、って言われても、消耗品だからな、としか言いようがないですよね。そういった点も含めて、ファッション業界がそうさせてしまったんだとは思います。長く着れることが価値だと。

でもそれって、究極的に言っちゃえば、ウェディングドレスって一番、価値のないものになってしまう。だって一回しか着ないのに、30万くらいかけるじゃないすか。時間でコスパ見てるのかなんなのか分からないですけど、それが価値だということ自体がおかしくて、このシーズンめちゃめちゃテンション上がって着れたけど、次のシーズン着れない服だって立派な価値だし」

服の価値は、結局は判断する個人によりけりだが、服を通して得られることがきっと様々にあって、一役買ってくれるひとつひとつのアイテムが、(値段も、耐久性も、ホットな存在として寄り添ってくれる期間の長さも、どれも単一の絶対的評価基準とはなり得ず、)すべてとても価値のあるものだと言えるだろう。

人生の楽しみ方、そして今後

止めどない会話に包まれながら、この日も魅力的な服をしっかりとウォッチ。アルマーニのロングコートと、ネックのシルエットがにくすぎるフィッシャーマンニット、そしてまたまた裏に隠されていた、小城さんがディーラーさんから無理矢理買い付けたというキツネの刺繍の入ったピンクのスウェットを購入。服を包んでもらいながら、最後の会話を交わした。

―次に、ここに戻ってきたときには、もうここにお店がない可能性もありますからね(笑)

「全然その可能性もありますよ(笑)自分自身で、ゼロから作ってるから。しかも僕の場合は福岡出身じゃなくて、独立して店つくってるからですね。極論、どんな場所でもまた同じような仲間つくれる自信があるんで、本当にどこでもいい。どこでもいいし、いつでもいい、っていう感じですね。」

実は2020年2月29日、つまり”1周年”のタイミングで、お店一旦閉じてまた他の場所に移るかも、という噂を聞きつけていたこともあり、今回慌てて足を運んだのだ。

ひとまず、その案はなくなったとのことで一安心ではあったが、きっとこの場所でお買い物できるのもそう長くはないだろう。

「全然関係ないですけど、エゾジカって、めちゃめちゃでかいの知ってます?ショベルカーぐらいでかいのいるんすよ。」

― (爆笑)

「いや本当。“エゾジカ” “巨大” とかで検索して出てきますよ。

YouTubeで僕、巨大動物とかよく見てるんですよ。巨大生物…巨大動物…」

エゾジカが本当に巨大で驚きの爆笑をさせていただき、その後店内の写真を撮ろうとしていると

「ちなみに秘密のスポットでいうと、あ、全然別にこれがおすすめですって意味じゃなくて、あそこにあの赤塚不二夫大先生の漫画に出てくるやつがいるんすよ。アレです。バカボンとかに出てくる、あのコマとコマの中間に出てくる立ちションしてる犬」

小城さんは、レトロなオモチャやフィギュアもこよなく愛している。


「どこでも好きなところ撮ってもらっていいですよ。渡辺洋服雑貨店のロゴが入ってるとこはないので。」

―看板は、おもての看板だけですもんね?

「…そうですね、あのー、思ったよりも錆びなかったんですよねー、錆びて2年くらいでもう何書いてるか分かんないタダの錆の色みたいにしたかったんですよね」


正直、訪れる側からすれば、これくらいは文字が残ってくれていて助かった。しかし、小城さんにとっては、まだまだ求める姿には至っていない。まだまだ足りない、その飢餓感が、これからもファッションを通して人の心、人生を動かし、カルチャーをひっくり返していく動力になるはずだ。

=End=

March 30th / 2020

Interview & Writing: Jasmine

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