ディープな異世界の入口となるメディア「TRENCHANT」を
自己表現を追求するダンサーJasmineが立ち上げたわけ

このメディアの名称「TRENCHANT」の由来は、「鋭さ」×「トレンド」。街の中を一歩踏み込めば、音楽、アート、ファッションなどのありとあらゆるカルチャーが息づき、奥に行けば行くほど、濃厚で奥深い世界が広がっている。アンダーグラウンドで、入るのに勇気がいる世界。でも、少しだけ覗いてみたい。そんな密かな好奇心を抱く人たちへ、生々しく切れ味のある唯一無二の情報を届ける。

そんな目的でこのメディアを立ち上げたのは、今年27歳になるストリートダンサー・Jasmine。彼女は、10歳の頃からダンスを始め、22歳で単身ニューヨークへ。現在は、ダンスはもちろんのこと、DJやイベントのオーガナイズ、音や映像などの制作活動もこなす、れっきとしたアーティストだ。

なぜ、いち表現者であるJasmineが、今回TRENCHANTを立ち上げるに至ったか。そこには、彼女のもつ独特の世界観と、これまでの生き様が深く関係していた。

ニューヨークで180度変わった、表現者としての真の生き方

新宿、歌舞伎町。ホスト、キャバ嬢、意味もなく酔いつぶれた人々、外国人。有象無象が行き交うこの夜の街に、今回のインタビュー対象であるJasmineは、颯爽と現れた。

金のピアスにダークブルーのヘアーの彼女は、歌舞伎町の夜の街にどろりと溶け込みながらも、すっと浮かび上がってくるような透明感のある聡明さも持ち合わせていた。その風貌はまるで、彼女の魂がそのまま形を成して立っているかのように感じられるほどに、ありのままだ。

静かに街を眺め、「この雑多な感じが好きなんよね」と呟く。洗練された外見とはあまり似つかわしくない、柔和な福岡弁でくしゃっと笑った。そんな、何処と無く引き込まれる魅力をもつJasmineに、彼女自身の人生観やメディアの構想に至るまで、あらゆることを聞いていく。

今日はよろしく。早速、話を聞いていくけど、準備はいい?

よろしくお願いします!

本題のTRENCHANTのことは後半にとっておくとして、まずはJasmine自身のことを聞かせてほしい。今の活動を簡単に教えてくれる?

踊り手としての活動をメインに、DJ活動、イベントオーガナイズ、それからのんびりビートの制作って感じかな。そして、よく驚かれるんだけど実は会社員です(笑)

その外見で会社員はかなり意外(笑)色々な活動をしてるみたいだけど、すべての行動の軸に、ダンスがあるのかな?

そうやね。Hiphopを好きになったのも、クラブカルチャーに興味を持ったのもすべてダンスがきっかけ。小学5年生の時にストリートダンスに出会ってから今までずっと、踊ることから離れたことはないし、やめようと思ったことも一度もないよ

どうしてそこまでして踊るの?Jasmineにとって踊る原動力ってなんなんだろう?

うーん。物心ついたときから”踊る”行為が好きやったみたいで。後から聞いた話やけど、私がお腹の中におる時期にちょうど両親がReggae Dubを聴きよったらしい(笑)今思うと、そういう潜在的な記憶があるのかも。ダンスを習う前は当時流行っていたモーニング娘。のMVを観て、完コピしたりしてた。

本能的なものなんだね。

たぶん、みんなが”誰かに話したい”と思う衝動とかと一緒だと思う。私にとっては、それがダンスだったってだけで

Jasmineのダンスは、自由というか、振りを決めずに音楽に身を任せて踊るスタイルがメインな気がするんだけど。小さい頃からずっと今のスタイル?

いや。高校生までは、生まれ育った福岡でダンスをしていて、習った振りをいかに完璧に踊りこなすかばかり考えてる生粋のショーダンサーだったんよ。高3のときに初めて、即興で踊るフリースタイルって概念に出会って、”本当のダンスってもしかしてこれなんやないか?”って思ったのが今のスタイルになった最初のきっかけかな

まさか昔はショーダンサー気質だったとは。今のダンスからは想像つかないかも。

でしょ(笑)でも、フリースタイルと出会ってすぐにそっちに振り切ったわけじゃなくて。大学入学を機に上京してからしばらくは、結局振り付けのあるショーが活動の主軸のままだったんよ。180度変わったのは、大学3年生の時に行った、ニューヨークでのダンス留学を経てから。ニューヨークに行って、自分の中で凝り固まっていた色んな殼が、身体からすべて剥がれ落ちていって、根本にある生き方のスタンスが変わったんよね

そんなに!ダンスだけじゃなくて、生き方自体が変わったんだ。

ニューヨークに行く前、大学時代の私は人間関係に雁字搦めになっていて、全部完璧に結果を出さなきゃって自分を追い込んどった。そのせいで、プライドで壁を作って自分を守ろうとして、付き合いにくい人間になってしまってたんよ。どんどん自分の首を自分で締めていって、大学も、東京という街も、自分自身も、全部嫌いになってしまっていた

それは、辛い経験だったね。

そう。それで人間関係がうまくいかなくなって、元々行く予定だったニューヨークに逃げるように行ったんやけど。そこで出会ったニューヨーカーたちのお陰で、これまで苦しんでいた私の悩みが、すごくちっぽけに思えたんよね

ニューヨークで何があったの?

ニューヨーカーたちはみんな、びっくりするほど自分の感情に素直なんよ。私ら日本人からしたら鬱陶しく感じるくらい情熱的に、自分のしたいように行動しとる。嬉しいときは狂気を感じるほど喜ぶし、腹が立ったらなりふり構わず怒るし。それは決して賢い方法ではないのかもしれないけど、それぞれが自分の人生に真っ向からぶつかって全力で生きてるのを目の当たりにして、物凄く衝撃を受けた。ダンスがどうとかあんまり関係なくて、そういう彼らの生き様が、私の分厚い殻を破りとったんやと思う

確かに、今のJasmineを見ても変なプライドは感じないし、むしろ生き生きしてるように見える。

日本へ帰国するとき、留学前のジメッとした鬱屈な東京を思い出して、またあの頃に戻ったらどうしようって怖かったんやけど。いざ帰国してみたら、見え方が180度変わっとった。大嫌いだったはずの東京がキラキラして見えるし、目に入るものすべてが鮮やか。留学前は実年齢より上に見られることが多かったのに、戻ってきたら急に、会う人会う人に若く見られるし

ものすごい変化だね。それを経て、今のJasmineが出来上がったわけだ。

そう。それからは、毎日変わった形の石を探しに行くみたいに、ワクワクしながら外に出ていくようになった。そうしたら、同じ東京という街なのに、行く場所も出会う人も全てが一変したんよ

壁一枚挟んだ先で、ディープな世界が広がる東京

それにしても、ひさびさに歌舞伎町の方にきたけど、カオスだね(笑)

ほんとにね。東京ってすごい街やと思わん?ものすごい深いカルチャーの世界と世俗的な世界が、隣り合わせになっとる。例えば、高校生がジュース飲んでるファミレスの、壁一枚挟んだ先に、ディープな音楽を楽しむクラブがあったりするやろ。世界的に見ても、こんな街なかなか無いと思う。

確かに(笑)ヤバい人と普通の人が混在してる街だよね。同じ都会だけど、東京とニューヨークは違うもの?

ニューヨークは、本当にヤバいところに行ったら命が危ない。日本は、治安が良いからこそ、歌舞伎町みたいな街が成り立ってる。まあ良い意味で、誰も周りに興味なくて自由な感じは似とるけどね

ニューヨークから帰国してから、東京のどんなところを知ったの?

東京ってめちゃくちゃディープ。掘っても掘っても底がないんよ。当初は、地下2階でめっちゃ深いところにいると思っとったけど、どんどん進んでみたらなんと地下15階まであって。地下15階まで進んだ今からしてみたら、かつて深いと思ってた地下2階なんてほぼ地上やん、みたいな。

でも、そんな深くまで入るのって、勇気がいるよね。

興味はあっても、怖いよね。あと、入り口が不明(笑)だからこそ、その入り口を作りたくて今回、TRENCHANTを始めたんだ。デビッド・リンチのドキュメンタリー『アートライフ』って知っとる?この映画、彼の世界観がとてもよく描かれとるんよね。私たちは誰しも、気持ち悪さや違和感のような”非日常”に触れたい欲求があると思うんやけど、そこにアート性を見出して大衆化までやってのけたのがデビッド・リンチ。だから、彼の映画はグロいのに、広く評価されている

非日常に入り込む隙をつくる”TRENCHANT”の世界

デビッド・リンチのように、ディープな世界の入り口を作るためにメディアを作ったの?

そう。これまで話してきた通り、私はただ踊りたいだけ、表現したいだけのいち表現者に過ぎない。でも、自分が求める空間が今ないから、それを作るためにTRENCHANTを作ろうと思った

求める空間って?

音楽でもクラブでもアートでもそうだけど、その世界にすでに入り込んだ人しか、実際の空間に来ないのが現状。ダンスイベントだったらダンサーしか来ない、音楽イベントにはDJなどのその世界に携わっとる人しか来ない。もっと色んな人が興味をもっとるはずなのに

確かに、閉じた世界のイメージは強い。

数年前、目白のビルの前で踊っとったら、会社帰りのOLさんが足を止めて、私が踊り終わるのを最後まで見てくれたことがあったんよ。見終わったあとに拍手をして、感動しましたって言ってくれて。”こういう人たちにもっと、知ってもらいたい”と思ったのが、そもそもメディアを作ろうと思った最初のきっかけ。

そんなエピソードがあったんだ。

ディープな世界に入ってみるのは勇気がいるけど、入る隙があることを知ってほしい。そして、私たち表現者は、興味を持ってくれる人に発信したいし伝えたいと思ってる。だから、お互いのクロスポイントを作りたいんよ。

表現者だからこその感覚で作ったメディアだったんだね。これからTRENCHANTを通して、どんなことを発信していきたい?

TRENCHANTの由来は、”鋭さ”と”トレンド”。”鋭さ”には、発信する側の生き様が伝わる尖った情報を届けたいという想いが。”トレンド”には、一見表面的に聞こえるかもしれないけど、リアルタイムで世の中が何を感じ何を作り出しているかを知ることは重要だという価値観が、それぞれ詰まってる。そのふたつを掛け合わせた情報を届けるのが、私たちのメディアTRENCHANTです

ありがとう。今後のTRENCHANTが楽しみ。最後に、ここまで読んでくれた皆さんに、一言お願いします!

あなたの隣には、見たこともない異世界が広がっているかもしれない。TRENCHANTの記事を読んで興味を持ったら、是非勇気を出して一歩踏み出して、足を運んでみてほしい。”スマホ上じゃなくて直接見てもらいたい!”というのが、私たち表現者の本望やからね

Edited by Karin
Photo by Mayo.K

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